MUNE ATSUSHI | arts & illustrations

やっちまった兄〜ヘレディタリー/継承(2018)〜

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今年の春に公開された映画
「ミッドサマー」を観たうえで
考察や解説のブログを読んでいると
物語の奥行きや伏線の張り方に関して
同作監督アリ・アスターの前作
「ヘレディタリー/継承」と比較されている。

ミッドサマーを観た人はわかると思うが
ジャンルとしてはホラーなのか、
あるいはカルトサスペンスともとれる。

しかしどうやら前作ヘレディタリーは
がっつり系のホラーのようだ。
しかもレビューを見ると
トラウマ級に恐ろしいらしい。

ミッドサマーには
いい大人になったぼくにとっても十二分過ぎるほどの
トラウマを植え付けられたのに
それを超えるような前作、
ヘレディタリーとはいったい
どんな映画なのだろうか。

そんな軽い気持ちでAmazonプライムをポチった。

そして後悔してる。

ヘレディタリー/継承(2018)

●あらすじ●
アマチュア作家のアニーは
旦那と息子のピーターと
娘のチャーリーとの4人暮らし。

自身の母である
おばあちゃんジェーンの死をきっかけに
グループカウンセリングに通う。

母の死の喪失感と同時に
自分の家系が皆精神疾患に悩まされたことから
それが自分の子どもたちにも
遺伝するのではないかと気を病んでいる。

その間おばあちゃんっ子だった
娘のチャーリーも悲しみに暮れていたのだが
おばあちゃんの葬儀ののちに
裸足で屋外を徘徊したり
死んだ鳩の首をハサミで切断したりと
日毎に奇行が目立つようになる。

そんななか母親の言いつけにより
兄ピーターと2人で学校のパーティーに向かうのだがそこでとんでもない事件が起こる。

●登場人物●
お母さん
→ミニチュア作家であり2人の子供の母でもある。
劇中では様々な顔芸を披露する。
物語の主人公。

お父さん
→ぶっ壊れていく家族を
なんとか修復しようと奔走する。
登場人物のなかで唯一まともな人。

お兄ちゃん(ピーター)
→暇があれば友達とハッパばっかりキメてる。
母の夢遊病や超常現象現象に悩まされる。
ムロツヨシに似ている。

妹(チャーリー)
→本作のキーパーソン。
彼女を中心に家族が崩壊に向かう。
ナッツアレルギー持ち。

おばあちゃん
→お母さん方のおばあちゃん。
彼女の死から物語が始まるすべての元凶。
とんでもないババア。

※※以下ネタバレ全開で書いていきます。※※

たくさんの映画レビューのなかでも取り立てて
母親役のトニ・コレットの
「顔芸」と言われるほどの
表情による演技が高く評価されてる。
まるで「恐怖」のお手本のような
この映画の象徴であるが

ぼくにとっては
この妹のチャーリーこそが
この映画のアイコンであり
恐怖の象徴だと思える。

ホラー映画の多くは
13日の金曜日のジェイソンや
邦画ではリングの貞子など
恐ろしくも魅力的なキャラクターによって
支えられている。

この映画にとっての恐怖のアイコンは
チャーリーの他ならないだろう。

チャーリー自身モンスターではないし
なんなら劇中の早い段階でログアウト(死亡)する。

ただ出演時間は他の家族の
誰よりも短いにも関わらず
死後もなおそのイヤな存在感を残した。

不可解な超常現象が起きるから怖いのではない。
「あの」チャーリーをすぐそばに感じるから
始終イヤな空気で満たされているのだ。

ただし狂っていたのはチャーリーだけじゃない。
はっきり言ってこの家族は全員病んでる。
(まともなのはお父さんだけ。)

兄のピーターも大概なのだが
感情移入をせざるを得ないキャラクター。< /p>

まさに愛すべきダメ男。

妹のチャーリーを死なせてしまうシーンは
もう目も当てられなかった。

車の運転中に事故で首がもげてしまった妹を
一切直視できずにそのまま帰宅。

遺体は車内に放置。

自分は就寝。

翌朝響き渡るママの悲鳴。

もうどうしようもないのだ。

「えっ!?なんでそんなことするの!?」と
突っ込みたくなるのは山々なのだが
起こった事実も受け入れられないし
とるべきベストな行動もわからない。

むしろあの場でテキパキと動いたり
逆に取り乱してしまったりすれば
観ていたぼくらはきっと冷めてしまっただろう。

自分の過失によって
妹を死なせてしまったピーター。
その罪悪感と喪失感を無言で貫き
ただただ「普通」を通そうとした姿が
他人事じゃないように痛いほど刺さってきたのだ。

映像が怖いとかグロいとか、
そういうのじゃない。

残酷な精神描写こそこの映画の
ぶっちぎりなトラウマシーンであり
あのシーンこそ二度と観たくない。

本作は悪魔崇拝するカルト教団によって
一家がぶっ壊されていく様の
一部始終を描いた物語であるが
ぼく自身イマイチ「悪魔」への
恐ろしさが掴めていない。

災いや超常現象、
不思議な出来事や恐怖体験も
それらの原因が「悪魔の仕業」
と言われると少し距離を感じてしまう。

反対にキリスト教圏の人たちは
リングや呪怨のようなあの湿っぽくていやらしい
怨霊や幽霊の恐ろしさは掴めているのだろうか。

だとしてもこのヘレディタリーは
悪魔の直接的な恐怖も勿論であるが、
終盤近づくにつれ徐々に明かされていく
カルト教団の真の目的と物語の結末には
救いも何も用意されていない。

悪魔は怖くないけど宗教は怖い。

「盲目的な信仰ゆえの人間の恐怖を描いた物語」
というとかなり薄っぺらくなってしまうが
オカルト映画としては
100点満点すぎるほど
震え上がらせてもらった。

二度目を観るのはかなり勇気が要る。< /p>

ただストーリーを知ったうえで
二度観ないと楽しめない
緻密な伏線も張り巡らされている。

あんなに辛いのに
あんな苦しい物語なのに
この映画ももちろん。
ミッドサマーも併せて是非もう一度
観返したいと思ってしまった。

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