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名訳・名台詞から観る名作〜ターミネーター2(1991)〜

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前回オズの魔法使が
最高傑作だと書きましたが
ターミネーター2も大好きなのです。

「ターミネーター2の一番面白いところは?」

なんて友達にニヤニヤしながら
聞かれることがありますが
元も子もない答えですが全部なんですね。

ホラーテイストの強かった前作に比べ
製作費が大幅に増えたことによって
当時最新の特殊効果や大胆なアクションを駆使した
大迫力の映像は言わずもがなではあるが
ド派手な映像だけに頼ることなく
人類の未来を守る為に戦う人々の群像劇と
少年と機械と友情、「人の心たるや」を描く
完璧すぎる脚本との両輪が
映画界の遺産と言える程の
名作たらしめたとわたしは考えています。

この1作品できっと朝まで語り明せるほどの
魅力が詰まった映画ではありますが、
わたしの語彙力で端から端まで書いてしまえば
書けば書くほどその感動が希釈されてしまうので
そこで今回は劇中のある一言の台詞と
その翻訳のされ方をピックアップすることで
「ターミネーター2」という作品の
奥ゆかしさを一緒に噛み締めていきたいと思います。

今回紹介する台詞がサラ・コナーの

“I could’nt…”

と言う台詞です。

その台詞が登場するのが
物語は中盤。

未来で人類に反旗を翻す
AIシステムスカイネットの
開発者となるダイソン氏を抹殺しようと
サラ・コナーはダイソン邸へ単身乗り込むのであるが
銃弾の雨と硝煙立ち込めるなか
傷を負ったダイソンを追い込んだところ
あと一歩のところで我に帰り抹殺は未遂に終わる。

ジョンの胸のなかで涙を流しながら

I couldn’t…

そう呟くのだった・・・。

はい。名シーン。

その後助けに来た
息子ジョンとの会話には
思わず胸が熱くなります。

さて。この“I could’t.”という
直訳すれば「出来なかった」と言う台詞は
吹き替え版の違いによって
異なる訳がなされています。
ソフト版とテレビ版の
それぞれの訳を比べて見てみましょう。

○ソフト版日本の吹き替え

「もう少しで人を殺すところだった、、、。」

観ているわたしたちも
ホッとしてしまう台詞です。

人類の未来を守ると言えど
「まだ」罪を犯していない
一般の市民を殺めていまうということは
自身が最も憎む殺人マシーンと
同等に成り下がってしまうところを
ハッと我に帰り踏みとどまったことが
この言葉からわかります。

この言葉からは
サラ・コナーの人間としての
良心が見受けられますね。

世界と息子ジョンのためには
如何なる手段も選ばない戦士。
それがサラ・コナーなのです。

シルバーマン博士の膝をペンで刺したり。
シルバーマン博士の腕を折ったり。
シルバーマン博士に洗剤の注射を打とうとしたり
無茶苦茶する人間。
それがサラ・コナーなのです。

しかし罪なき市民であり、
自分と同じように子供を持つ親でもある
ダイソン氏が命乞いする姿と対峙したとき
戦士ではなく人として、
母としてのサラコナーに立ち返り
良心が打ち勝ったのです。

サラの自身、
殺人マシーンと化していた自分への恐怖と
そくはならなかった安堵が入り混じる様も
この翻訳から読み取ることができます。

序盤のシルバーマン博士を人質にとった際の
「君に人は殺せない。」と言う言葉も
ここで伏線回収となりました。

では次のテレビ吹き替え版です。

○テレビ版吹き替え

「殺せなかった、、、。どうしても出来ない。」

元のスクリプトに
近い訳し方をしたこのパターンでは
前のソフト版とは少し違った印象を受けます。

人を殺めずに済んだ安堵であれば
ソフト版の翻訳で十分なのですが
「殺せなかった」という言葉自体には
まだダイソン抹殺の意思が感じられます。

殺るきマンマンなのです。

しかし涙しながらへたり込むのは
言葉と行動に乖離が見られるのはなぜでしょう。

それはこの乖離の背景にサラ自身が抱えた
未来への責任感からと考えられます。

「ダイソンの抹殺」のこの瞬間に
未来の人類を救える可能性は
サラに委ねられていますが
結果的に失敗に終わったことで
その可能性は消えてしまいました。

ダイソンを抹殺「出来なかった。」
なので人類を守ることが「出来なかった」

世界の明暗を左右するこの瞬間、
自身のためらいによって
人類を救うチャンスを
ひとつ失ってしまったのです。

しかし同時に罪無き人を
「殺さずにすんだ。」ことになります。

先ほどのソフト版の翻訳の通りの
自身への恐怖と安堵に加え。
さらに自責の思いが込められいます。

「(I could’nt…)殺せなかった。」から
サラが自分に課した使命が
如何に大きいものなのかが
この言葉から感じられます。

ダイソンの抹殺をとどまることで
理性と感情との間で葛藤する
人間の代表となるサラ・コナーと
任務遂行を最優先とする
機械の兵隊ターミネーターとが対比された
素晴らしいワンシーンとなりました。

機械の反乱による人類滅亡への恐怖

機械に人の心が芽生えていく希望

人間の不器用で非合理的なか弱さ

そして人間が人間であり続けようとする強さ

約2時間程のこの映画の
テーマをぎゅっと込めたのが
この“I couldn’t ”という
台詞ではないでしょうか。

わたしは外国映画はなるべく
字幕で見たいのですが
こういった翻訳の違いを見比べることも
吹き替え版を観る楽しみ方の一つになりますね。

もちろんこのシーン以外にも
名台詞もたくさんあるので
どこかで紹介したいと思います。

個人的にはT-1000の
「ゲーセン??」が好きです。

ほな!

 

●関連記事●
オズの魔法に魅せられて・前編〜オズの魔法使(1939)〜

オズの魔法に魅せられて・後編〜オズの魔法使(1939)~

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